1 感情を以ってうたふこと。
2 真に内心から湧き上がる感情無きときは、漫然として歌を作らんと思わざるべきこと。
3 世才・文才・常識、そんなものでは、自分も感動してをるにあらず。
それを以て他人を動かし得ざること当然なり。
4 感情を単純化してうたふべし。
5 表現も単純にして直裁なるを尚ぶ。徒に曲折せるは、真情の流露をさまたぐ。
6 詞句の曲折は初学の能くなし得るところにあらざるも、老熟してこれを
自在になし得るとも、真情の枯渇し居らば、かへりて厭うべきなり。
7 用語は常人の耳に遠からざるものをよしとす。ろくろく学問を精しからぬ者が
専門家振りて、古語歌謡といふようなるものを襲用するは、最も厭うべきことなり。
古語を用ふるは、やむを得ざる時にのみ限りて許さるべし。
8 散文にていふに如かざることを歌として歌ふは、根本的に心得ちがいなり。
9 和歌は我国のみにあれども、詩歌は如何なる民族にもあり。和歌はその一種なり
と知るべし。我国の歌人なかまにあらざれば解しがたき如きことを、詩歌の本道とも
本質とも認めがたし。外国語に翻訳しても、その国の人々によりてたやすく解せらる
るやうにてありたし。
10 従って、その辺の歌集をのみひもどき居りて、それで勉強したりとおもふは
不心得なり。ひろく世界古今の詩歌を味ひみるべし。
11 いやしくも歌を作るは容易にあらず。うかうかと濫作して、よき歌の出来んことを
希ふは無理なり。一方心境を練り詩歌を弘むるとともに、真に感興の内に催すを
まちて、精細を傾けて歌ひ出すべし。
12 要するに作歌は、天才と人力とをまちて、しかも精進して初めて為し得るのみ、
漫然たる態度にてたづさはるべきにあらず。
14 書外は工夫をつみて悟得せらるべし。
追記 音調の朗々としてうたふに勝(た)ふるを要することは、毎度申す通りなれば、
右のは省略したり。