いちき串木野市長 原発避難説明会でフクシマ被災者を侮蔑
住民「油断」・「甘かった」
今月18日に鹿児島県いちき串木野市で開かれた、九州電力川内原子力発電所(薩摩川内市)の事故に対する避難計画の住民説明会で、同市の田畑誠一市長(3期目)が、福島第一原発の事故によって故郷を失った被災者らを侮蔑する発言を行っていたことが明らかとなった。
発言の中で田畑市長は、「私に言わせたら」と断った上で、福島第一原発事故の背景として、国や電気事業者だけでなく住民にも「油断」があったと明言。さらに、「電気事業者も住民の皆さんも甘かった」と厳しく批判していた。
原発事故の責任は国と電力会社が負うべきもので、「安全神話」に騙されてきた住民を責めるのは筋違い。原発に故郷を奪われ、避難生活を余儀なくされている人たちの心情を無視した発言に、被災地だけでなくいちき串木野の市民からも反論の声が上がりそうだ。(写真はいちき串木野市役所)
原発避難説明会で被災者を批判
問題発言が飛び出したのは、先週18日。川内原発の立地自治体・薩摩川内市に隣接するいちき串木野市の羽島小学校体育館で開かれた「原子力災害避難計画住民説明会」の席上だった。午後7時から始まった説明会には、地元住民ら約140名が参加。住民避難計画について県と市が説明したあと、質疑応答で「原発再稼働を進めるつもりか」と聞かれた市長が、答える中での発言だった。
録音記録に基づく市長発言の詳細は次の通り。
エー、先ほどから、この地域の安全・安心を守るため、そして将来の羽島に備えて、あるいは串木野市全体に備えてどうあるべきかということで、大変貴重なご意見を、ずっと拝聴させていただいております。
原子力発電というのは、これまで国のエネルギー政策によって進められてきたものだと思います。これまでは。しかし、ご承知の通り、福島第一原発事故が発生をして、いまだに収束をしておりません。従いまして、これからは、未来のためにも、今もそうでありますけども、私は、原子力発電というのは、将来、ゼロに向かって、その稼働をですね、ゼロに向かって進めるべきだと思っております。
そういった意味で、現在、エー私は、今の立場としてですね、この羽島の場合は、風力発電の設置を誘致をいたしました。あの風力発電って、1万所帯の一般家庭の皆さん方の電気をまかなうんです。
またこの中核工業団地に、全国でも珍しいんですが、企業の皆さん方が一緒になって、中小企業の皆さんが、そして市も出資をして、太陽光発電の設置をいたしました。これは大変話題になりまして、全国でも大きく、私も前の東京大学の総長殿と対談をして、大きく報道をされましたが、さらにまた、今年も市有地で、端のほうに空いているとこの太陽光発電をつけます。ですから、この先、極力原子力発電というものを減らしていくべきだという思いに変わりはございません。従いまして、前々申し上げておりますように、3号機の増設は反対であります。
今、おたくでも、○○さんのところの、再稼働のお話でありますが、この再稼働につきましては、ご承知のように、先ほどから県の皆さん方がご説明をなさっておりますが、福島の第一原発に予期せない事故がですね、起きてしまった。起こってしまった。そのことを踏まえて、やはり想定外という言葉を使ってはいけない、ということで、国の方もですね、さっき、ご説明がありましたねぇ。なんか、100万度何とか以内に規制を厳しくするという、こういったこと等の厳しい基準で原子力規制委員会が今調査をしている状況であります。
私は、私に言わせたら、結果を見て大体言えることなんですけど、今にして思えば、福島原発はですね、このあたり、国も、電力事業者も地域住民も、みんな含めて油断だったと思うんです。
あの、確かな数字はちょっと忘れましたから正確じゃないかもしれませんが、確か、あの原子力発電所のあった、建設してあったところはですね、たしか、3.76ほどいくらかしかなかったんです。高さがですね。あの原子力発電所が。
ところが、いまは忘れましたが、今から7~8年前にマレーシアで大津波が起こったんですよ。あれからでも良かったんですよ。高台に建設をし直すとか。実際に議論になったようですが、まさかということで、あのままにした。これは油断だったと思うんですよ政府も。電力事業者も住民の皆さんも甘かったと思う。
しかし、幸いこっちの方は、今のところ歴史上の津波の歴史はありませんけども、むこうのほうは、今までもですね、何回も、○○さんご存知のように、今から1200年前だって、いまほどの津波が来たというのが、記録に残ってるんですね。明治何年?年号忘れましたがね。明治何年でしたかね。明治も来とれば、大正も来てる。ペルー地震の時でさえ、あの北陸のリアス式海岸、その一帯が、3メートルの津波が押し寄せたんですよ。そういうところだから、もっと私は用心をすべきだったと思います。
また事故が起きてからも、冷やさなかったのが一番の原因です。今にして思えば、塩でもなんでもぶっかけて――そういう指示もあったみたいですよね、アメリカから。止めればよかったんですよ。だから、あってはいけないんです。
だから、そういったことを踏まえて、原子力規制委員会の皆さんが、グレードをうんと上げて、厳しい検査をされているはずです。この原発の事故等を踏まえながら、その厳しい検査をクリアした上で、こうしてやっぱり皆さん方に規制委員会の皆さんで、説明をされるということもハッキリ言っておられますので、しっかり説明をした上でですね、そしてどうするかということを、判断すべきだと思っております。
私はだから、市民の皆さんのこうした今日のようなご意見をお聞きをしながら、また市民の代表である議会の皆さん方のご意思等を踏まえながら、私は安全性を第一としながら、判断をしておきたいというふうに、今、現段階では思っております。
筋違いの被災地住民批判
言うまでもなく、福島第一原発事故の責任は、国と電気事業者である東京電力にある。周辺住民には何の責任もない。フクシマの住民は、いわゆる「安全神話」によって騙されていた被害者であり、事故後は放射性物質がばらまかれたことで、伝来の土地を追われ、避難生活を余儀なくされている。被災者に向かって「油断した」だの「甘かった」だのというのは本末転倒。批判の対象は国や電力会社のはずで、被災地の住民ではない。さらに田畑市長の一言は、原発周辺の住民や有識者らが、地震や津波に対する警鐘を鳴らし続けてきた歴史を無視した暴言でもある。被災地に寄り添うどころか、踏みにじる姿勢と言うべきだろう。
前提は事実誤認ばかり
お粗末なのは、発言の前提となった事例について、田畑市長の事実誤認が多すぎることだ。市長が言う『マレーシアの大津波』に該当するのは、2004年のスマトラ島沖地震によるもの。7~8年ではなく、10年前の出来事だ。さらに津波被害はマレーシアだけでなく、インド洋沿岸の広い範囲に及んでおり、30万人を超える死者・行方不明者を出している。住民避難を説明する場で、正確さを欠く発言は慎むべきだった。
市長が、曖昧な知識に基づいて話を組み立てたことは明白だ。『ペルー地震の時でさえ、あの北陸のリアス式海岸、その一帯が、3メートルの津波が押し寄せたんですよ』と言っているが、これは論外。でっち上げと言われてもおかしくない。ペルーでは、直近で2007年と11年に大規模な地震が起きているが、日本に津波の影響があったのは2007年の地震の時。しかし、この時日本国内に到達した津波は、数十センチ規模のものだったに過ぎない。しかも津波が来たのは「北陸」ではない。
そもそも北陸とは日本海側。新潟、富山、石川、福井の4県を示す呼称。ペルーの地震によって起きた津波が、北陸に被害をもたらすわけがない。どうやら市長は1960年のチリ地震のことと勘違いしているようで、たしかにこの時は日本国内に数メートル規模の津波が押し寄せたが、それは「三陸地方」でのこと。NHKの朝ドラ「あまちゃん」で有名になった三陸鉄道だが、「三陸」とは、主として青森県から岩手県を経て宮城県までの太平洋側沿岸部付近を指す。北陸とはまったく別の地域なのだ。過去の津波の事例はあやふや。地名もデタラメ。この程度のお粗末な知識を持ち出し、被災者を批判するなどもってのほかだろう。恥を知れと言いたい。
鹿児島県やいちき串木野に「油断」や「甘さ」はないと言いたいのだろうが、もし本当にそう思っているのなら、田畑市長は判断能力を欠いた、無能な指導者ということになる。問題発言があった住民説明会では、住民側から出される厳しい質問にまったく答えておらず、要援護者のみならず、一般市民が納得できる避難計画案さえ示されていない。フクシマの現実や歴史を正しく理解していないトップがいる限り、市民が救われることはない。鹿児島県知事も、いちき串木野市長も、原発や避難計画を語る資格はあるまい。
その証拠に、県内の説明会で参加者に配布された県作成の資料「鹿児島県地域防災計画(原子力災害対策編)の概要」では、原発事故の時に住民避難を指示するための最重要拠点と定められたオフサイトセンター(「鹿児島県原子力防災センター」)が、「退避」することを想定。あってはならない状況を前提に入れて、避難計画を策定していたことが、先週のHUNTERの報道で明らかになっている(参照記事⇒「鹿児島県 原発避難計画で大きな間違い」。
田畑市長は、翌日の住民説明会でも同様の発言をしており、確信犯的に被災者を批判したのは明白。これは被災者への侮蔑だ。
田畑さんに聞きたい。あなたは、同じことを被災者の前で言えるか?もうひとつ。いちき串木野の市民にデタラメな話を吹き込み続けていることについて、どう責任を取るのか?
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