劣化する地方紙の権力監視機能(1) ― 南日本新聞の紙面から ―
権力の監視を使命とする新聞が堕落すると、権力は暴走し、結果として腐敗や税金の無駄遣いが助長される。不利益を被るのが「読者」であることは言うまでもない。とりわけ、地域に根ざした「地方紙」が、当該自治体の「犬」と化した場合は始末に負えなくなる。都道府県ごとに全国紙と地方紙のシェアを見ていくと、いくつかの例外を除いて、大半が地方紙に軍配が上がる状況。その地方紙が、ノーチェックで自治体の情報をたれ流せばどうなるか――。鹿児島で圧倒的なシェアを誇っているのは「南日本新聞」だが、ここの報道姿勢には県民からも疑問の声が上がっている。
巨大公共事業の計画破たんにノーチェックの記事
HUNTERは今月8日、鹿児島県が薩摩川内市で整備を進める産業廃棄物の管理型最終処分場「エコパークかごしま」が、工事の遅れで予定通りオープンできない状況に陥っていることを報じた(参照記事⇒「鹿児島県100億円最終処分場で再び計画破たん」)。処分場の工期延長は2度目。これまで県が主張してきた工期が守られないということは、当初契約の77億7,000万円から96億円以上に膨れ上がっていた事業費が、さらに積み増しされる可能性があることを意味している。悪しき公共事業の典型であるが、事業費が増えることで不利益を被るのは納税者である県民。由々しき事態である。
ところが、処分場の完成が遅れることを早い時期に知っていた南日本新聞が、県の言い分だけを垂れ流していたことが、後日になって明らかとなる。下は、8月1日の同紙朝刊の紙面。薩摩川内産廃処分場――すなわち、「エコパークかごしま」についての記事だ。
見出しは〔完成10月以降 大屋根を公開〕。どう見ても、“完成間近”のニュアンス。本文では7月31日に地元住民を対象にして行われた場内視察の模様を写真付きで紹介。工事の進捗状況や建設反対派の声を加えて、記事の体裁だけは整えている。しかし、問題の工期延長については、サラリとしたもの。事業主体である鹿児島県環境整備公社の専務理事が発したコメントを載せただけだった。記事中、専務理事はこう語っている――「技能労働者の確保が難しい時期があり、9月末の工期は延びる。工期延長に比例して工事費が増額するわけではない」。
前述したように、工期の遅れは2度目。1回目は1年もの延長で、約19億円の公費が積み増しされている。しかし、再度の工期延長の問題点については何一つ触れておらず、疑問さえ呈していない。公社側に突っ込んだ取材を行わなかったことは明白だ。
公社側は、HUNTERの取材に対して、新たな工期や積み増しされる工事費については、「精査中で答えられない」と明言しており、これは工事費増額の可能性があるということを意味している。さらに公社側は、処分場の外構工事が終わっていないことや、廃棄物の搬入管理施設である「計量棟」の建設工事が基礎の段階でとどまっていることも明かしている。南日本新聞の記者が書いた8月1日の記事は、公社側の言い分をノーチェックで垂れ流しただけ。問題意識を欠いているのか、検証能力がないのか、意図的に公社に迎合したのか、のどれかということ。いずれにせよ、「権力の監視」という使命を果たしていないのは確かだ。
まるで「権力の犬」
南日本新聞の権力に寄り添う姿勢は、原発に関する記事でも明らかとなっている。下は、6月30日の同紙朝刊1面。全国で停止中の原発のうち、最初の再稼働が確実となった九州電力川内原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)をめぐる特集記事の初回だった。
一昔前の原子力ムラ広報とみまごうような紙面。見出しだけ見れば「原発礼賛」としか言いようがない。川内原発再稼働を急ぐ九州電力や、伊藤祐一郎知事の後押しをする意図があったと思われてもおかしくない格好だ。
鹿児島県では昨年、公費を使った上海研修など、無駄な公共事業が発端となって、県民有志が伊藤祐一郎知事へのリコール運動を起こした。過去50年間で、知事がリコールを起こされたのは鹿児島で2例目。伊藤県政の歪みが顕在化したのは誰の目にも明らかだったが、南日本新聞がことさらリーコール問題を大きく取り上げることはなかったという。
7月に同紙が連載した伊藤県政10年の検証では、初回でリコールのことには一切触れず、財政再建の実績を強調する記事からスタート(右はその紙面)。県民から「おかしい。知事へのリコールはそんなに軽いことではない」という声が上がっていた。
地方紙の権力監視機能が劣化すれば、「地方自治」の根本が揺らぐ事態となるのは必定。機能不全が指摘される地方議会の現状を考えれば、なおさら事態は深刻といえるだろう。南日本新聞は、誰のために新聞を発行しているのだろうか……。
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