将来「がん増加とは予測せず」 国連科学委・ラーソン議長
「放射線によるリスクはとても低いが、今後も調査は必要だ」と話すラーソン議長 |
東京電力福島第1原発事故の健康への影響に関する報告書を4月にまとめた「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」のカールマグナス・ラーソン議長(68)=スウェーデン出身=は4日、福島民友新聞社のインタビューに応じた。被ばくにより将来がんの発生率が明確に上がるとは「予測していない」とする一方、放射線のリスク自体は残るため「今後も調査が必要だ」との考えを述べた。
―報告書に「放射線により今後、がんの発生率に識別できるような変化はないと予測」とある。根拠は。
「福島のデータを、信頼性の高いモデルに当てはめ予測した。子どもの甲状腺がんについては特に調べたが、不確かな部分は残るもののリスクはとても低いとの結論を得た。がんの発生率は増加しないと予測できるがリスク自体がなくなったわけではなく、今後も綿密な調査が必要になる」
―県民健康調査で甲状腺がんが見つかっていることについては。
「集中的な検診で病気を発見しようとして、それに応じてその病気が浮かび上がってきているのが現状。今の結果は(放射線影響のない)安定したデータだと捉えている」
―報告書は放射線影響とは別に、避難や被ばくへの恐怖に起因するうつ症状や心的外傷後ストレス障害(PTSD)にも言及している。
「放射線自体の影響を調べた報告書だが、社会的要因の健康影響や精神面への影響を考えることは重要だ」
―政府は除染をめぐり、長期的目標を「年間追加被ばく線量1ミリシーベルト以下」と定め、先月には空間線量ではなく個人被ばく線量を重視して進める新方針を打ち出した。どう考えるか。
「われわれは各国の方針、基準に口出しはできない。政府がこの報告書に基づいて判断してくれることを望む。専門家の立場として言うなら、今後の線量予測に役立つ個人被ばく線量の調査は有意義だと思う。1ミリシーベルトについては、日本国民が自然界から年間に受ける線量よりも低いとはいえる」
―放射線の影響をめぐり、科学者の間で意見が分かれ、県民が戸惑ってしまうことがある。
「科学の問題というより、『信頼』をめぐる問題だ。確かに科学者には、みんなと同じデータを用いながら『…すべきだ』と政府や人々に意見を言う人もいるが、われわれは科学で証明できる範囲の事実を提供するだけにとどめるべきと考えている」
(2014年9月5日 福島民友ニュース)
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