福島原発事故で「拡散された放射能」と、「レントゲンのX線」とでよく比較しますが、それは全く違います。
では、「放射能」と、「レントゲンのX線」はどう違うのでしょうか?
福島原発の事故以来、放射線に関するニュースの中で 「放射能漏れ」 という言葉を耳にします。
放射能というのは「放射する能力」のことなので、放射能漏れ、と言うと「放射する能力が漏れた」ことにを示します。
また、放射能と放射線は別物です。
「放射能」は、文字通り 「放射線を出す能力」 のことで単位はベクレル。
「放射線」は、どれだけの影響が人体に及ぶか、という影響の大きさを表すことで、単位はシーベルト。
「放射線」を初めて発見したのはレントゲン写真として今も名前が残るレントゲン博士。また、「放射能」を発見したのが測定単位に名前が残るベクレル博士。
ともに19世紀末。
そして両博士が発見したものをそれぞれ「放射線」、「放射能」と名付けたのがキュリー夫人です。
21世紀の今になって 「放射能漏れ」 というおかしな言い方になっているのは、一部の専門家が「放射能を持つ物質 (放射性物質) のことを略して放射能」と言っていたのが広まったからなのです。
ニュースなどで、「この地点での放射線の測定値は胸のX線写真○枚分程度」 など言いますが、病院でレントゲン「X線」をほとんどの方が何度も撮影されていることから、こうやって聞くと、「何となく安全な気がする」ものなのです。
では、原発事故で問題になっている放射線とX線は同じものなのでしょうか。
そもそも「X線のX」ってどういう意味でしょうか。
レントゲン博士が写真フィルムを感光させる性質を持った線、「目に見えない光」 を発見しましたが、当時は正体が分からなかったので「謎の」という意味の「X 線」と命名しました。
このX線は普通の光よりも物体の中を通り抜ける力が強いため、性質を利用して体の内部構造をフィルムに写すのがX線写真の原理なのです。
X線の発見の3年後、キュリー夫妻が放射線を出す物質である「ラジウム」を発見しました。つまり放射能を持つ「放射性物質」です。
同じ放射線でもラジウムが出すのは「ガンマ線」といってX線とは違います。
両者は似ている部分もありますが、根本的に違うのは発生の仕方です。
レントゲンのX線撮影装置には放射性物質が入っておらず、装置は全く危険のない機械です。
では放射線であるX線はどこから出ているのでしょうか?
真空のガラス管の中で人工的に高速の電子を金属にぶつけることで瞬間的にX線を発生させることで、患者さんの体を通り抜ける。
ほんの一瞬の間に写真を撮影するわけです。
その一方、原発事故で問題になっている放射線は「ガンマ線を放つ放射性物質」から構成されています。「放射性物質」は岩石のような物質であり、爆発や事故で細かい塵となり散らされます。
これが 「放射能漏れ」 の正体なのです。
この塵は、空中や地面、建物の表面で放射線を出し続けます。
吸い込んだり、食べたりで体内に入ると、この物質が体から出ていくまで、放射性物質によりますが、何十年も場合によっては何千年もかけて崩壊 (分解) していきます。これは、放射能を失うまで体内で放射線を出し続けることになります。
⇒このように病院で使うX線と原発事故の放射線は同じ放射線の仲間でも人体に影響を与える形が全く違うのです。
ですから、「原発事故で発生した放射線の測定値をX線写真の○枚分」、と表現するのは科学的に見て、完全な間違いなのです。
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