2011年2月14日 22:31
尹東柱は韓国の詩人です。一昨年の暮から年明けまで韓国の劇団コリペに能の指導をしたのですが、その時に韓国語の詩に能の節付けをして舞を作ろうと思い立ち、金世一(キムセイル)さんに尹東柱を教えてもらいました。日本の占領下、皇民化政策によりハングルの使用を禁止されるという、状況の中、日本の大学(立教・同志社)で学んでいた彼は、ハングルで詩を書くことをやめず、治安維持法違反で逮捕され、福岡刑務所に思想犯として服役中、薬物実験の犠牲者となり、1945年2月16日に亡くなります。
さぞ社会的な詩を書いたのだろうと、思われますが・・・・
雪降る地図 スニ(女性の名前)の去りし朝に 言うに言えぬ思いで牡丹雪が降りて、悲しいことのように窓の外遥か広がる地図の上を覆う。部屋の中を振り返れば何もない。壁も天井も真っ白だ。部屋の中にも雪が降るのだろうか、本当に君は消えた歴史のように一人で行ってしまうのか、去る前に伝える言葉があることを手紙に書いたが、君の行く先を追って、どの町どの村どの屋根の下、君は僕の心の奥にだけ残っているというのか、君のちっちゃな足あとの上を雪が次々被い隠して捜す術もない。雪が溶ければ残った足あとのひとつひとつに花が咲いて、花のあいだにも足あとを捜しに出かければ、一年十二ヶ月いつも僕の心には雪が降るのだろう。
何と美しい詩ではありませんか。
尹東柱はキリスト者であり、愛国心を信仰の中に如何に昇華させて行くのかを求めた人だと思うのですが、そのせいか恋愛の詩はほとんどないのです。「雪降る地図」を愛の詩と読めば、美しく陶然とさせられます。しかし、この詩には日付があります。1941年3月12日。この頃、朝鮮総督府は朝鮮語教育を全面禁止します。雪が降って隠してしまっているのは、地図なのです。去ってしまった恋人は、消えた歴史のように一人行くのです。
尹東柱と言う人は、本当に清潔感のある清々しい顔をした好青年です。友と写真に写る時にも、必ず端の方ではにかんでいる。その人の心の中に雪が降り積もり、悲しみと怒りを覆い隠して、美しい花を私のもとへ届けているようです。
今日は夕方から雪が降り出し、東京も白く覆われています。私はこの詩を知ってから、雪が降ると「スニが去った朝に・・・」と胸の中で呟いてしまいます。
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