甲状腺ガンについて、ガンの原因が(福島原発の)放射線によるものかどうか、分かる可能性が濃くなってきました。
米国科学アカデミー紀要に掲載された論文によると、ヘルムホルツ・ゼントラム・ミュンヘン(Helmholtz Zentrum Munchen(HZM)研究センターの科学者たちは、電離放射線被曝したことを示す甲状腺癌の遺伝子変化を発見したというのです。
これを遺伝子マーカー、放射線被曝指紋などというそうです。
放射性物質が落ちた地域に長時間滞在した方々が甲状腺ガンになった場合、犯人である東京電力・福島原発の「指紋」がべったり残っているのが分かるというわけです。
・・・・というところまでしか、私にもよく分かりません(笑)。
しかし、この研究論文が今後さらに確認されますと、福島原発事故の原爆症訴訟では非常に有力な証拠になることは間違いありません。
以下、日本語訳、解説、原文の順で掲載しますので、後の世でお役に立ちますように。
(役に立たないことを祈る、と結ぶのが普通でしょうけれども、必ず役に立つことでしょう 哀)。
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注 ゲノム
「ゲノム(genome)」とは"gene(遺伝子)"と集合をあらわす"-ome"を組み合わせた言葉で、生物のもつ遺伝子(遺伝情報)の全体を指す言葉です。その実体は生物の細胞内にあるDNA分子であり、遺伝子や遺伝子の発現を制御する情報などが含まれています。タンパク質は、遺伝子の情報をもとに転写・翻訳という過程を経て作られます |
電離放射線は,電磁波,粒子線のうちで,直接的または間接的に空気を電離する能力をもつものです(単に「放射線」と呼ぶことが多い)。アルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子線など。
甲状腺癌に放射線被曝指紋発見
25/05/2011 03:07:00 Health Canal.com
ノイヘルベルク発
Helmholtz Zentrum Munchen(HZM)研究センターの科学者たちは、電離放射線被曝したことを示す甲状腺癌の遺伝子変化を発見した。遺伝子マーカー、いわゆる「放射線被曝指紋」はチェルノブイリ被災者の甲状腺乳頭癌患者において確認されたが、放射線被曝歴のない患者の甲状腺癌にはみられなかった。PNAS(米国科学アカデミー会報)の最新号でこの結果が公表された。
HZM研究センター放射線細胞遺伝学班のホルスト・ジゼルスベルガー教授とクリスチャン・ウンガー博士の率いる研究チームは、インペリアル・カレッジ・ロ ンドンのジェラルディン・トマス教授と協同して、チェルノブイリ原子炉爆発による放射性ヨウ素降下物に被曝した児童の甲状腺癌を研究した。研究チームは、 これらの腫瘍から得た遺伝子情報と、放射性ヨウ素が崩壊した後、爆発1年以上経過して生れた児童に発症した同タイプの腫瘍に見つけられた遺伝子情報とを比 較した。第七染色体の小片のコピー数は、放射線被曝した児童の腫瘍にのみ増加が認められた。これは、癌の放射線病因論を示す初めての遺伝子マーカーの一つ であることを立証している。
これは1986年のチェルノブイリ原子炉事故以来はじめての大発見である。科学者達は放射能汚染が原因の癌と自然発症癌を区別することが可能となってきている。ジ ゼルスベルガー教授はこの研究が成功したのはチェルノブイリ細胞組織バンクにあるチェルノブイリ地区の甲状腺癌を入念に収集、情報管理、保存してきた賜物 であるとしている。教授は、この独特な資料収集のおかげで研究チームが同年齢・地域背景をもった児童の腫瘍を初めて比較することが可能となったことを指摘 した。ジゼルスベルガー教授によると、遺伝子マーカーを利用することにより、甲状腺癌の臨床診断が改善され、またどのようにして放射性ヨウ素が甲状腺癌を 発症させるかを理解しやすくなるとのことである。教授らのグループは、「EpiRadBio」(疫学的放射線生物学)プロジェクトでEURATOM(ユー ラトム 欧州原子力共同体)が資金提供する将来の研究において、遺伝子指紋が甲状腺癌を引き起こすために必要とされる放射線被曝量を表示できるかどうかを 見極めるために研究を拡大する予定である。
追加情報
原典:
ジュリア・ヘス他 若年患者の甲状腺乳頭癌の染色体バンド7q11の増加は低線量放射線被爆と関連がある。米国科学アカデミー会報(PNAS);出版物へのリンク
見出し:
写真:甲状腺乳頭癌において、参考遺伝子(緑)のコピーよりもCLIP2遺伝子(赤)のコピーのほうが多く検出されている。
ヘルムホルツ・ゼントラム・ミュンヘンについて
ヘ ルムホルツ・ゼントラム・ミュンヘンはドイツの環境保健研究センターである。この分野においては主要な研究機関で、環境要因と個人の遺伝子配列の相互関係 が引き起こす慢性病および合併症の研究を行なっている。同研究センターの職員数は1700名で、ミュンヘン北部のノイヘルベルクに、50ヘクタールの研究 キャンパス本部を構えている。ドイツ最大の科学組織であるヘルムホルツ協会の一組織である。同協会は17の科学技術ならびに医学生物学研究センターのコ ミュニティーで、総職員数30万人である。
小児腫瘍専門医(昔の学友)の解説
まず雑誌ですが、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United St
ates of America、通称プロナス、日本語では米国科学アカデミー紀要と言って、かなり
レベルの高い一流の雑誌の1つです。
もちろん後で否定される可能性がないとは言えませんが、現時点では論文に載っている範
囲の内容はかなり信頼できると考えていいと思います。
次に内容ですが、まだ論文全体は入手していないので、要約からわかる範囲です。
調べた方法は CGH array と言って、ゲノム全体にわたって、ある程度狭い範囲まで分
かる精密度で、ゲノムの特定の部位が増幅していないか、欠失していないかを調べる方法
です。この10年、広く使われて来た方法で、ゲノム全体を網羅的に評価できるという強み
を持っています。ただし、最近開発された次世代シークエンサーのようなすべての塩基配
列を読みとるほどの精度はありません。この方法を使うと、特定の遺伝子の異常があるか
どうかは分かりませんが(もちろん他の方法を併用すればできる)、発がんに関係する遺
伝子異常の存在をある範囲内くらいまで特定することができます。
たとえて言うと、ある犯罪の容疑者(複数いるとして)が東京都文京区本郷と神戸市東灘
区にいそうだと分かります。ここまでわかると、たとえばこの住所に住んでいる前科者(
他のがんで発がんに関与していることが分かっている)をリストアップして調べたり、場
合によっては、全戸をしらみつぶしにあたると容疑者にたどりつける可能性があります。
この方法を使って、まずmain cohort 52人の手術時25歳以下の甲状腺がんの患者さん(
被曝した人も被曝していない人も含まれます)のゲノムを調べてみました。すると被曝し
たことのある甲状腺がんの患者さんのうち、39%では7q11.22-11.23(7番染色体の長腕の
特定の領域、上のたとえで言うと文京区本郷三丁目1番地から3番地くらい)の部位の増幅
がありました。この異常は被曝していない甲状腺がんの患者さんでは見つかりませんでし
た(abstract では一人の患者さんで見つからなかったと書いてありますが、おそらくも
っとたくさんの調べていると思います)。次にvalidation cohort (今回の発見が本当そ
うかどうか確認するための別集団)28例を調べてみましたが、同様の結果でした。
今回、見つかった7q11.22-11.23 という領域にはCLIP2 という名前の遺伝子をはじめ、
いかにも発がんに関係していそうな複数の遺伝子が存在しており、実際に発現が増加して
いたものもありました。このことから、この領域の増幅はたんなる偶然ではなく、発がん
のメカニズムに関係している可能性が高い、と結論されています。ただし、被曝した患者
の一部(39%)でしかみつかっていないので、他の発がんのメカニズムも存在するだろう
と言っています。
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以上の内容から何が言えるかというと、
(1) 被曝したことのある甲状腺がんの患者さんのゲノムを調べて、7q11.22-23 の領域の
増幅が見つかったら、がんの原因が被曝である可能性はかなり高い。今後多数例で正しい
ことが確認されたら、裁判では勝てる可能性がかなり高い。ただしまだ100%とは言えな
い。何といっても今回調べた患者の数はわずか数十例なので、おそらく1000例も調べれば
被曝していない甲状腺がんの患者にも一定の頻度(低いとは予想されるが)同じ異常が見
つかると推測されるから。もちろん一万例調べても見つからないということは理論的には
あり得るが、ちょっと考えにくい。もしそうなら、裁判では必勝だろうけれど。
(2) 被曝したことのある甲状腺がんの患者さんのゲノムを調べて、この異常がなかったと
しても、原因が放射線にないとは言えない。この異常は被曝した甲状腺がんの患者さんの
39%でしかみつかっていないから。
おそらく、今後もっとたくさんの甲状腺がんの患者を対象として、今回の結論が正しいか
どうか検証されるでしょう。
その過程で、放射線による甲状腺がん発がんのメカニズムが解明される可能性も期待でき
ます。
実用性についてですが、今回使った方法のCGH array はある程度の規模の研究室(日本に
数十施設はあるでしょう)なら可能で、費用は(人件費等を除いて)五万円くらいです。
裁判をやろうと考えるなら賄える範囲でしょう。自分の研究業績につなげたいという研究
者を見つけられたら、ただでやってくれるかもしれません。
追伸
フルペーパーが入手できたので、abstract であいまいだった点が分かりました。
最初のcohort 52例の解析で、7q11.22-11.23 の増幅があったのは、
被曝した患者さん33例中13例
被曝していない患者さん19例中0
varidation cohort 28例では、
被曝した患者さん16例中6例
被曝していない患者さん12例中0
以下甲状腺癌に放射線被曝指紋発見25/05/2011 03:07:00 Health Canal.comの原文
Fingerprint of radiation exposure discovered in thyroid cancer
25/05/2011 03:07:00 Health Canal.com
Neuherberg,- Scientists from the Helmholtz Zentrum München have discovered a genetic change in thyroid cancer that points to a previous exposure of the thyroid to ionising radiation. The gene marker, a so-called „radiation fingerprint“ was identified in papilliary thyroid cancer cases from Chernobyl victims, but was absent from the thyroid cancers in patients with no history of radiation exposure. The results are published in the current issue of PNAS.
The research team, led by Prof. Horst Zitzelsberger and Dr. Kristian Unger from the Radiation Cytogenetics Unit of the Helmholtz Zentrums München, in collaboration with Prof. Geraldine Thomas, Imperial College London, studied thyroid cancers from children exposed to the radioiodine fallout from the Chernobyl nuclear reactor explosion. The team compared the genetic information from these tumours to that found in the same type of tumour that arose in children born more than one year after the explosion, after the radioactive iodine had decayed away. The number of copies of a small fragment of chromosome 7 was found to be increased only in the tumours from the irradiated children, establishing this as one of the first genetic markers that indicate a radiation aetiology of cancer.
This breakthrough is the first time since the reactor accident in 1986 that scientists have been able to discriminate between the cancers caused by the radioactive contamination and those that arise naturally. Prof. Zitzelsberger ascribes the success of this study to the careful collection, documentation and storage of thyroid cancers from the Chernobyl region in the Chernobyl Tissue Bank. He noted that this unique collection of materials made it possible for the team to compare for the first time tumours from children of the same age and regional background. The availability of the genetic marker, according to Prof. Zitzelsberger, will improve both the clinical diagnosis of thyroid cancer and our understanding of how radioactive iodine causes the disease to develop. In future studies funded by EURATOM in the project „EpiRadBio“ the group will extend the study to determine if the genetic fingerprint is able to indicate the level of radiation exposure that is required to cause the cancer.
Additional Information
Original Publication:
Hess, J. et al Gain of chromosome band 7q11 in papillary thyroid carcinomas of young patients is associated with exposure to low-dose irradiation. Proceeding of the National Academy of Sciences USA (PNAS); Link to publication
Caption:
picture In papillary thyroid carcinomas, more copies of the CLIP2 gene (red) are detected than of a reference gene (green)
About Helmholtz Zentrum München
The Helmholtz Zentrum München is the German Research Centre for Environmental Health. The leading research facility in this field, it conducts research into chronic and complex diseases caused by the interaction of environmental factors and an individual’s genetic disposition. The Helmholtz Zentrum München has about 1,700 staff members and is headquartered in Neuherberg in the north of Munich on a 50-hectare research campus. The Helmholtz Zentrum München is a member of the Helmholtz Association, Germany’s largest scientific organization, a community of 17 scientific-technical and medical-biological research centers with a total of 30,000 staff members.
www.helmholtz-muenchen.de
http://www.healthcanal.com/cancers/17423-Fingerprint-radiation-exposure-discovered-thyroid-cancer.html
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