上:ドイツで量り売りされる果物 下:東急ストアの過剰パック
|
ゴミ抑制のためには、野菜や果物に過剰包装しない「裸売り」が有効だ。欧米では一般的なこの売り方が、日本では普及していない。実際に販売現場で裸売り比率を調べたところ、最も高いイオンでも2割に満たず、ダイエーと東急ストアに至っては7%前後と、ほとんどやる気が見られない結果だった。消費者の意識向上が先か、企業努力が先か、行政が動くのか。現状では、どの動きも鈍く絶望的であることが分かった。海外の成功事例と併せてリポートする。
【Digest】
◇ゴミ抑制に有効な量り売り
◇家族構成のせいにする東急ストア
◇コストコの独自パッケージ
◇英マーク&スペンサーのオーガニックキャンペーン
◇インドとマレーシアのコカコーラボイコット
◇赤ちゃんの命を奪ったネスレ粉ミルクのボイコット
◇賢い消費者を育てる英「エシカル・コンシューマー」
◇スタバに「マグカップ使え」運動
◇ブログミーツカンパニーの取り組み
◇企業に遠慮し、ほとんど何もしない環境省
◇排出抑制、従わずとも50万円以下の罰則だけ
◇ヨーカドーは数値目標を設定、公開中
◇自治体の要望受け入れたイオンとサミット
◇「CSR」と言っても通じないサミット
◇成功した様々なボイコット活動
1995年に
容器包装リサイクル法が施行され、ここ数年でPETボトルや牛乳パックなどの回収システムは整備された。これにより多くの容器包装がリサイクルされるようになったが、分別回収は各自治体の努力に任されている。
たとえば、記者の住む川崎市では、プラスチック類ではペットボトルだけ資源ゴミの日に回収されるが、それ以外は分別回収されない。自治体としては「他の都市から引っ越して来たかたから指摘を受け恐縮している」(環境局廃棄物政策担当)ほど遅れており、今後、古紙類、プラスチック・トレイの順に検討中だが、まだスケジュールすら決まっていないという。
自治体以外の回収ルートとして、小売業者などが独自に収集し、リサイクルに出すルートがある。記者の自宅付近では、白い発砲スチロール・トレーは、スーパーマーケットに回収ポイントがあるが、透明のプラスチック・トレイは回収してくれない。いまだに、野菜や果物を包む「ラップ」や「プラスチック・トレイ」は、そのまま普通ゴミとして捨てざるを得ない。
◇ゴミ抑制に有効な量り売り
 |
ドイツのベルリンにある「Bio Frische Markt」で売られている裸売りの野菜と果物 |
|
環境負荷の点からは、単にリサイクルが進めば良い訳ではない。大元となるゴミの量を抑制できるほうが効果が大きい。その点から考えた場合、スーパーにおいては、欧米で一般的な、野菜や果物の「量り売り」が有効である。
日本の場合は、過剰な包装が、過剰なゴミを排出している。欧米のように量り売り(グラムあたりに値段が設定されている売り方)や裸売り(1個あたりに値段が設定されている売り方)に変えた方がいいのは当然だ。
たとえば「Bio Frische Markt」は、ベルリンを中心にドイツでチェーン店展開をしている中堅スーパーマーケットだ。欧州では、このような中堅から大手のスーパー、小さな小売店にいたるまで、野菜や果物は裸で店頭に並べられ、グラムあたりの値段が付けられているのが、ごく普通の光景。消費者は、必要な分だけ選び、店内に備え付けられている量りで、値段のついたシールを受け取る。
では日本では、どのくらい裸売りされているのか。店ごとに違いはあるのか。実際に身近にある大手スーパーの売り場に赴き、野菜と果物を対象に、裸売りしている品数を数え、全体に占める割合を調査した。
店名 | 総品数(品) | 裸売り(品) | 裸売り比率 |
イオン |
162(野101果61) |
28(野19果9) |
17.2%(津田山店) |
イトーヨーカドー |
195(野149果46) |
28(野19果9) |
14.3%(松戸店) |
サミット |
238(野193果45) |
23(野15果8) |
9.6%(中野島店) |
ダイエー |
220(野183果37) |
17(野10果7) |
7.7%(向ヶ丘遊園店) |
東急ストア |
313(野250果63) |
21(野9果12) |
6.7%(鷺沼店) |
 |
大葉までパックされていたのは東急ストアだけだった
|
|
最も裸売り商品の比率が少ないのは東急ストアで、わずか6.7%。もっともましだったイオンの半分以下で、はっきりと取り組み状況に差が出た。
東急ストアの広報部(03-3717-2317)に、なぜ裸売りに消極的なのか、聞いてみた。広報担当の佐藤さんが対応した。
◇家族構成のせいにする東急ストア
--包装容器を使わないで裸売りにされている野菜、果物が、他の大手スーパーに比べ、少ないのですが?
「基本的にはバラ売りとか裸売りを進めています。ただ鷺沼店のように家族構成が多い地域がございます。そのような店舗では、まとめて買う方が多いという事で裸売りしている商品を少なくしています」
--そうですか?どちらかというと果物やサラダを細かく切って、パックにつめて売っている商品が目立ちましたけど。裸売りを進めているという事ですが、具体的にどのようなことをなさっていますか?
「例えばブドウなどのトレーには紙のトレーなどを使うようにしています。また今後、レジで回収できて、そのまま再利用できるトレーを使用したいと検討しています」
--レジで回収・再利用できるトレーというのは使用素晴らしいアイデアですが、具体的にいつ頃からという目標はあるのでしょうか?
「いや、まだ具体的に、いつというのは決まっていません」
--他の大手スーパーさんと比べても東急ストアさんの裸/バラ売りの割合が少ないことについて、それで良いと思いますか?
「今後、会社としてバラ売り出来るものをふやしていくつもりです」
--では、裸売りやバラ売りを、いつまでに、どのくらいの割合で減らしていこうと言う数値目標というのはありますか?
「今の時点では具体的に何とも言えません」
--そうですか、裸/バラ売り以外に、東急ストアさんで取り組んでいる具体的な環境活動はあるのでしょうか?
「マイバック運動を推進しています。これにより毎年、レジ袋を辞退するお客様の数が増えております。これは具体的な数字なども出ております。他にも廃棄物削減の取り組みなどもしていますので、我が社のホームページをご覧ください。
会社として推進しているが、まだ具体的な数値目標や期限が決まっていない、という。要するに口だけで、本気でやるつもりはないということ。消費者が声をあげて実施を働きかけるしかないようだ。
【スーパーマーケットCSR 担当窓口】 イオン株式会社 環境社会貢献部043−212−6037 株式会社イトーヨーカドー 企業行動委員会事務局03−6238−2111(代表) (株)サミット 広報室03−3318−5020 株式会社ダイエー お客様サービス部03−6388−7041 株式会社東急ストア 広報部03−3717−2317 |
◇コストコの独自パッケージ
米国では先頃、倉庫型ホールセールの COSTCO が、新たなリサイクル・パッケージを開発した。このパッケージはリサイクル素材を利用した紙板で出来ている。
今まで使っていたプラスチック素材のパッケージは石油を利用して出来ていた為、燃やした場合にCO2やダイオキシンが出た。それに比べこの新パッケージは石油の消費を減らす意味でも、CO2を削減する為にも地球に優しい。なによりリサイクル素材から作られていて、使用後は再びリサイクルが可能である。このパッケージは消費者に対しても地球環境に対しても優しいので、グリーン・パッケージと呼ばれている。
→COSTCO、グリーン・パッケージを開発
このように企業努力によっては、包装容器を環境負荷の低いものに変えることもできる。日本の技術力を持ってすれば、大手スーパー・マーケットにも、まだまだできることはあるはずで、日本企業が怠慢なだけだ。
◇英マーク&スペンサーのオーガニックキャンペーン
一方で、量り売り/裸売りが進まない原因は、企業だけにあるのではない。スーパーの担当者は口を揃えて「お客様の要望によっては」と言う。つまり、消費者の要望がないから進まないとも言える。
日本人はもともと「御上(オカミ)が言った事が正しい」とする気質があり、市民1人1人が声を出せば社会が変わるなどとは思っていない節がある。それに加え、毎日、私たちが買う商品や、その包装形態が地球環境にどんな影響を及ぼすかを考える消費者も、少ない。
記者が1年間生活した経験のあるイギリスでは、消費者サイドから企業に対しての申し入れが活発だった。それにより企業のパフォーマンスが劇的に変化するのを目の当たりにした。
イギリスの小売り最大手「Mark & Spencer」は、今年の5月から、一般消費者をターゲットに、大々的なオーガニック製品の販売をはじめた。年初からLook behind the Label(レーベルの奥を見よう)というキャンペーンを立ち上げた。洋服や食品など、Mark & Spencerのお店で扱っている商品全般が、どこで、どのようにして製造されているかを、お客さんに向けて積極的に知らせ始めたのである。
Mark & Spencer のCSR 担当者によれば、「お客さんの80%は自分達が買う商品がどこで、どうやって作られているのかを知りたい」という。実際にこのキャンペーンは大成功した。Mark & Spencer の株価は、年初の500£ から上昇し続け、今では700£ 近くまで上がっている。
Mark & Spencer は、イギリス国内に300店以上を展開するほか、約30カ国にフランチャイズ店を持つ。従業員数は英国内で約6万3,000人、海外を合わせると約8万人、グループ全体の売上高は80億ポンド(約1.5兆円)超。つまり日本でいえば、東急や伊勢丹のような企業である。そういう会社が、こういった動きをする背景には、意識の高い消費者からのプレッシャーが背景にある。
◇インドとマレーシアのコカコーラボイコット
海外のその他の地域に目を向けてみても、ここ数年、消費者活動は盛り上がっている印象だ。例えば、インドやマレーシアでは、今年の8月から、コカ・コーラの不買運動が広がりつつある。
インドでは、コカ・コーラに殺虫剤が混入しているという疑惑から始まった。インドでは、コカ・コーラとペプシ・コーラを合わせた売り上げが年間16億ドル(約1842億円)にのぼるが、このボイコットで同社は世界的な事業戦略の見直しを強いられそうだ。
マレーシアの不買運動は、8月13日から始まった。イスラエル軍によるレバノンの攻撃に抗議するイスラム系消費者団体が起こしたもので、コカ・コーラの業績に打撃を与えそうだ。
→アジアで相次ぐ不買運動、米コカコーラ苦境に
◇赤ちゃんの命を奪ったネスレ粉ミルクのボイコット
また、世界的に最も大きく成果を出していると言われるネスレ(Nestle)商品の粉ミルクへのボイコットは、1977年にアメリカで始まり、その後、カナダ、ニュージーランド、オーストラリア、イギリス、スエーデン、ドイツに広がって行った。
このボイコットの起こりは、1960年代、先進国で出生率が軒並み低下し、乳業メーカーは、市場が縮小する分を埋め合わせようと第三世界へ進出した事に始まる。過剰な広告を出し、産院には膨大なサンプルを渡し、専門家達には贈り物をして、旅券や学会を世話したのである。
産院では粉ミルクが過剰に使われ、人工栄養の赤ちゃんがどんどん増えた。母乳は、赤ちゃんが母親の乳首を直接吸う刺激によって作られる。粉ミルクを使いすぎると、母親の体に「母乳を作れ」という指令を送ることができなくなってしまう。
この人工的な母乳不足が、清潔な水や消毒設備が得にくい国々では、たいへんな結果を招いた。細菌が繁殖したミルクを飲むことになったばかりか、粉ミルクを買い続けられる経済力がなく、薄く溶いたミルクを飲ませる人もたくさんいたのだ。このため、下痢や栄養不足で、たくさんの赤ちゃんが命を失ったのである。
これに対し、欧米の市民活動家や小児栄養の専門家たちが、抗議を始めた。中でも、シェアの半分を占めていたネスレに対するボイコット運動は大規模で、1977年に米国で始まり、上記の国々に広がり、一次だけで7年間も続いて、その後も繰り返された。
このボイコットは、WHO(世界保健機構)とUNICEF(国際連合児童基金)による「母乳代用品の販売に関する国際基準」、通称WHOコードが確立されるという大きな成果につながった。WHOコードは、企業が営利本位に暴走することから赤ちゃんを守るために作られたものである。
→ネスレに対するボイコット
◇賢い消費者を育てる英「エシカル・コンシューマー」
 |
イギリスの「消費」雑誌ethical consumer 毎号、洗濯機、テレビ、洗剤など、生活必需品をピックアップして特集を組み、それぞれ10商品ほどを独自の基準を設けてリサーチ。 |
|
以上、見て来たように、消費者運動が盛り上がっているのは、「賢い消費者」を増やすことをテーマに活動しているNGOの存在によるところが大きい。例えばイギリスのマンチェスターに拠点を構えるNGO「エシカル・コンシューマー」。1989年から活動を開始し、主な活動は2ヶ月に1度の雑誌の発行である。.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。