空間放射線量が基準値「0・23マイクロシーベルト/時」になるまで除染する――。この除染方針を環境省が変更した。今後は住民自身が小型線量計で測った個々のデータに基づいて除染を行うという。だが、被災者に被曝管理をさせるより急ぐべきは、環境浄化ではないか。自治体や被災者は困惑し、甲状腺検査の再検査で「経過観察」とされた大学生の自宅前の線量は今も基準値をはるかに超える……。福島を切り捨てるような「ずさんな方針転換」は、なぜ行われたのか。政官財の非情な思惑を暴く。
◇なし崩し的に除染を放棄するのか
◇国の方針転換に福島の自治体困惑
◇個人の線量管理には無理がある
◇環境省の幹部は「除染あと2年」
◇原発安全神話がまた繰り返されようとしている/児玉龍彦・東大先端研教授
なし崩し的に除染を放棄するのか
福島県郡山市在住の大学生Aさん(21)は、2012年秋に福島県が実施した甲状腺検査で、二次検査が必要となるB判定を受けた。
「市内の病院で再検査を受けたところ、甲状腺がんが発症するかどうかは確率の問題で、いまは経過観察するしかないと言われました。原発事故で飛んできた放射線を浴びたのが原因かもしれません。それなのに、自宅周辺はまだ除染が手つかずです。個人の被曝量を測定するガラスバッジ(小型線量計)もなく、自分がどれだけ放射線を浴びたかさえわからず不安です」
本誌は8月上旬、Aさんの自宅前の空間線量を測定した。すると地面から1メートルで、除染基準(毎時0・23マイクロシーベルト)の3倍近い毎時0・6マイクロシーベルトを記録。
地表は毎時3・5マイクロシーベルトを超えた。そこから寝室のベッドまで、わずか1~2メートルしか離れていない。
Aさんは毎日、大量の放射線が飛び交う場所で生活をしているのだ。
「毎時3マイクロシーベルトを超えるようでは、真夏に部屋の窓も開けられません。とにかく、一軒ずつ丁寧に除染してほしい」
しかし、国は被災地のこんな悲痛な叫びを黙殺するかのように、態度を豹変させた。
これまで国は除染の長期目標として追加被曝線量を年間1ミリシーベルト、1時間あたりの空間線量に換算して0・23マイクロシーベルトと示し、これより線量の高い地域の除染費用を負担してきた。しかし、環境省は8月1日、これまでの空間線量から個人線量を重視する新たな方針を発表。福島県内の4市で行った調査の結果をもとに、空間線量が毎時0・3~0・6マイクロシーベルトの場所の住民で年間1ミリシーベルト程度の被曝になるとし、0・23は除染目標ではないと主張し始めたのだ。
だが、被災地からは、まやかしの方針転換だと不満が噴出している。
「国がやろうとしているのは、除染がうまくいかなかったから基準を引き上げるということ。なし崩し的に除染を放棄するつもりではないか」(郡山市の住民)
三春町に住む橋本加代子さんもこう怒る。
「個人線量といっても、家族全員が違う。近所の学校に歩いて通う子供と、10キロ離れた郡山の会社へ車で通勤する私とでも被曝量は異なります。第一、個人線量を測るガラスバッジは子供だけに配られ、大人は持っていない。子供にしても、首からぶら下げるのは嫌だと常時身につけている子のほうが少ないのです。そんな状況で、年間1ミリシーベルトを下回る人が多いから、除染はしないと言われてもまったく説得力がない」
橋本さんの高校生の娘は、原発事故が起きた11年の7月から9月の2カ月間で、おそよ0・5ミリシーベルトの被曝をしたことがわかっている。その後、被曝量は徐々に下がっているとはいえ、いまだ自宅やその周辺は除染されていないという。
「毎時10マイクロシーベルトを超えるようなホットスポットがまだあるのに」
と、橋本さんは国へ早期除染を訴える。
国の方針転換に福島の自治体困惑
川俣町に住む新関まゆみさんの自宅は11年12月に除染した。ところが、本誌が8月に測定したところ、地表から1メートルの空間線量は最高で毎時0・4マイクロシーベルト以上だった。
そして線量計を手渡して2階の寝室を測定してもらったところ、毎時0・26マイクロシーベルトもあった。そこで一日7時間半過ごすというから、それだけで年間被曝量は0・7ミリシーベルトを超えてしまう・・・
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