時論公論 「見直し迫られる原発汚染水対策」2014年09月02日 (火) 午前0:00~
水野 倫之 解説委員
福島第一原発の汚染水対策がまた難航。
地下のトンネル内の高濃度の汚染水を凍らせてせき止める計画がうまくいかない。
このままでは汚染水対策の切り札、凍土壁にも影響することが懸念。
汚染水対策は40年かかるとされる廃炉の入り口。
今、対策にメドがつけられなければその先の廃炉行程全体が遅れ、福島の復興にも影響。
今夜の時論公論は汚染水対策の課題について水野倫之解説委員。
毎日400t増え続ける汚染水、東電はこれまで次々と対策。
「タンク」に、浄化装置「ALPS」。
地下水の建屋への流入を防ぐため山側でくみ上げ海に放出する「地下水バイパス」、
建屋周りの土を凍らせる「凍土壁」。
そして地下トンネル内に氷の壁を作って汚染水をせき止める「凍結止水」。
これらいずれも課題。
「タンク」からは汚染水の漏えいが続き、漏れにくい溶接型への置換え。
「ALPS」は未だに本格運転に入れず。
「地下水バイパス」も、建屋への流入量が減る効果はまだ確認できず。
そして今回の地下トンネルの「凍結止水」。
トンネル内には建屋との接続部の隙間から高濃度の汚染水が流れ込み、1万1,000t。一部が地下に漏れ出して地下水を汚染し、毎日200t海に流出、当面の最大のリスク。
このため東電は汚染水を凍らせて隙間をふさぎ、建屋から汚染水が流れ込むのを止めた上で、汚染水を抜き取るという世界でも例のない対策、管に冷却液を通せば1か月もあれば凍るとの見通しを示した。
しかし3か月たっても凍らないため、急きょ、氷も投入。24時間体制で400t以上投入したが壁の1割がどうしても凍らず、止水できない。
原因は汚染水の流れ。建屋とトンネルの間で汚染水の行き来があり、凍る前に水が流れてしまう。
そこで東電は凍らない部分に充填剤を詰め、水の流れを抑えて氷の壁を完成させる追加対策を打ち出し、凍結にこだわっている。
これに対して規制委は充填剤が固まる時の熱で氷が溶けるおそれもあるとして、水の中でも固まるセメントをトンネル全体に注入する方法も検討すべきという指摘も。しかし規制委は、今後東電が行う充填剤の試験の結果を見て決めるとして、判断を先送り。
凍結工法にこだわって時間を浪費するわけにもいかないが、かといってトンネル全体にセメントを注入する方法も汚染水が取り残されることも考えられ、試験の結果で判断するのは致し方ない。
しかしこの試験が問題。
東電は凍結止水の工事を前に、試験を行い、氷の壁ができることが確認できたとしていたが、本番では失敗しているから。
試験のやり方にミス。水の流れを再現しないまま試験を行ったから。東電はトンネル内に流れがあることを見逃していた。
せっかくの試験も、現場の状況が忠実に再現されていなければ意味がない。
今回東電は、セメントのほか水ガラスなど様々な充填剤を試験で調べるが、具体的な方法や条件が適切なのかどうか、規制委は詳細な検討を行うべき。
この凍結止水がうまくいかないと、汚染水対策の切り札とされる凍土壁にも影響を与えかねない。
凍土壁は建屋周り1.5キロにわたって管を打ち込み、冷却液を流し込んでまわりの土を凍らせダムのように建屋を取り囲むことで、地下水の建屋への流入を4分の1以下に抑えることができるとしている。国が建設費320億円を負担。
ただ一部地下のトンネルと交差するところがあり、中の汚染水を抜かなければ工事ができない。
さらに懸念されるのは、地下トンネル内の氷の壁もできないのに、その何千倍もの規模になる凍土壁が技術的に可能なのか。
凍土壁はこれほど大規模なものは、実績がない。
東電は、実証試験の結果、凍結は確認されていると説明。
しかし試験は深さこそ実際と同じ規模だが、長さは10m四方と実際の数10分の1の規模にすぎない。また壁は地下に170本ある配管やトンネルを横切るが、試験はこうした障害物もを想定してない。
部分的に凍らない場所が出てくればそこに地下水が集中して流れが早くなり、地下トンネルと同じように凍らなくなる恐れがあると指摘する土木の専門家も。
また地盤工学会は、実績のない技術だけで対応するのはリスクが大きく、凍土壁の周りを実績のある粘土などの壁で囲うなど二重三重の対策を考えておくべきだという見解をまとめ、東電に伝えている。
粘土などの壁で囲う方法は政府内でも一旦検討されたが、凍土壁になった経緯。コストや工事のやりやすさを考慮した結果と説明されてるが、国の予算を使う以上、東電救済のためではなく研究開発が必要だという理由付けが必要で、実績のない凍土壁が選ばれたという面も。
一企業救済のために国費を無条件に使うのは難しいが、福島第一原発の汚染水問題は国の最重要課題でもあるわけで、実績のある工法にも一定の国費を投入する意味はある。
凍結工法に見直しが迫られているわけなので、このまま凍土壁だけに頼るのではなく、追加の対策を今のうちから検討しておく必要あり。
現地にはタンク1000基57万t分の汚染水あるが、すでに9割以上埋まっている。東電は90万t分まで増設できるとしているが、対策がうまくいかなければ数年で破たん。
汚染水問題を解決できなければその後の溶けた燃料の取り出しなどに進むことができず、福島の復興にも影響しかねない。。
政府は先月、原子力損害賠償支援機構に廃炉部門を発足させ、専門家を集めて汚染水対策や廃炉作業で東電を指導する体制。
新体制では一旦決めた計画だからといってこだわるのではなく、常に失敗を教訓に修正が必要か見極めながら、対策を進めてほしい。
(水野倫之 解説委員)
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