消された芸術 息吹 練馬で「表現の不自由展」
2015年1月19日 朝刊
開催初日から大勢の人が訪れた「表現の不自由展」=東京都練馬区のギャラリー古藤で |
議論が二分していたり政治性が強いとみなされたりして、展示先から撤去を求められた芸術作品を集めた「表現の不自由展~消されたものたち」が十八日、東京都練馬区のギャラリーで始まった。「そんな動きが当たり前になれば、ますます息苦しい社会になる」と主催者。社会が多様性を認めない方向に進んでいるとの危機感から、それを見せる試みに挑んでいる。 (辻渕智之)
<梅雨空に「九条守れ」の女性デモ>
さいたま市の女性(74)がつくった俳句は色紙で展示された。昨年六月、土砂降りの東京・銀座で、集団的自衛権の行使容認に反対して歩く女性らのデモを見て詠んだ。句会で互選されたが、市の公民館は「公平中立の立場を取るべきだ」と月報への掲載を拒んだ。
女性は「何の問題もない句。おかしなことが今起きていると伝わるなら」と出品要請に応じた。
彫刻家の中垣克久さん(70)=新宿区=は昨年二月、政治家の靖国参拝などを批判する紙を張った造形を都美術館で展示した。だが「政治活動をするためのものと認められるとき」との運営要綱を理由に、美術館側から撤去や手直しを求められた。
今回はこの造形を写真で展示したほか、新作三点を出展。銅板で丸い墳墓を作り、周りに「憲法九条が平和の光を放つ」の文や、ノーベル物理学賞を受賞した故湯川秀樹博士が原子力利用の功罪を記した詩を張り付けた。
「人間が生きて死ぬことへの思いを感覚的にとらえ、今の時代を表現した。仏紙銃撃テロも起き、表現の自由をめぐり知性が各国で問われている」。テーマは都美術館の造形と共通すると話した。
主催したのは、首都圏の会社員や美術評論家、学生ら約三十人でつくる実行委員会。共同代表でフリー編集者の岡本有佳さん(52)は「ヘイトスピーチのような攻撃への恐れと政治の右傾化が影響し、憲法九条や原爆、原発といったテーマまで、表現の自由を侵される範囲が広がっている」と憂慮する。
共同代表の永田浩三武蔵大教授(60)は元NHKプロデューサー。旧日本軍慰安婦を扱った番組が、政治家と会ったNHK幹部の指示で放送直前に改変された経験をもつ。「抗議や嫌がらせを怖がるよりも展示をやめてしまう方が怖い。本当に排除すべきものか見て判断してほしい」と語る。
初日は百五十人以上が訪れ、会場は一時満員になった。府中市から来た翻訳業の山岡由美さん(48)は「特別に攻撃的な表現もなかった。撤去された事実に違和感を覚えた」と話した。
新宿のニコンサロンで二〇一二年、慰安婦を題材にした写真展が中止の通告を受けたものの、開催にこぎつけた韓国人写真家の作品や、昭和天皇の写真をコラージュした版画で富山県立近代美術館が一九八六年に購入し、公開の是非をめぐり論争を呼んだ美術家の近作も並ぶ。
約二十点を展示。二月一日まで練馬区栄町九のギャラリー古藤(ふるとう)で。入場料五百円、大学・高校生三百円、中学生以下無料。出品者らによるトークイベントがほぼ連日ある。問い合わせはギャラリー古藤=電03(3948)5328=へ。
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