僕らは何かに属していないと、うまく生きていくことができません。僕らはもちろん家族に属し、社会に属し、今という時代に属しているわけなんですが、それだけでは足りません。その「属し方」が大事なのです。その属し方を納得するために、物語が必要になってきます。物語は僕らがどのようにしてそのようなものに属しているか、なぜ属さなくてはいけないかということを、意識下でありありと疑似体験させます。そして他者との共感という作用を通して、結合部分の軋轢を緩和します。そのようにして、僕らは自分の今あるポジションに納得していけるわけです(あるいは納得できない人は納得できるポジションに向けて進んでいきます)。それが物語の持つ大事な機能のひとつであると、僕は基本的に考えています。もちろん物語にはそればかりでなく、ほかにもいくつかの大事な機能がありますが、とりあえず。
村上春樹
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