米国は、日本を、ぐいぐいと南シナ海紛争の中に引っぱり込んでいる。米軍と自衛隊の艦隊は、10月19日までインドとの3カ国の合同軍事演習(Malabar 2015)に参加したかえり、日米軍が一緒に南シナ海を通った時に、10月28日から2週間ほどの期間で、初めての南シナ海での日米合同軍事演習を行っている。中国を敵に見立て、航行の自由を確保する軍事演習などが行われた。こうした流れから考えると、日本が南シナ海で中国を挑発する日は、意外と近いとも思える。 (A First: Japanese and US Navies Hold Exercise in South China Sea)
日本政府は、日米が結束して中国を敵視することは対米従属を強化できて好都合と考えているだろうが、米国は同盟国にも知らせず突然仇敵に対して譲歩することがあるので、この点も要注意だ。米国は、イスラエルにつき合ってイランに核の濡れ衣をかけて潰そうとしていたはずが、いつの間にかイランを許して核協約を結び、イスラエルを国際的な孤立に追い込んでいる。日本が今春、米国と一緒に加盟を拒否した中国主導の国際銀行AIIBも、その後、米国政府は加盟こそしないもののAIIBを支持すると表明し、日本だけが孤立して中国敵視の姿勢を崩せない「はしご外し」に遭っている。 (日本から中国に交代するアジアの盟主)
日本政府の中でも、外務省は徹頭徹尾の対米従属だが、外務省と並んで官僚独裁機構の中枢にいる財務省は、そうでもないかもしれない。財務省は10月26日、在日米軍の駐留費の一部を日本政府が負担する「思いやり予算」の中の米兵用娯楽施設の運営費などを削減し、その資金を東シナ海でのISRの増強など防衛費増にあてる構想を発表した。米軍が日本(沖縄)に駐留している理由は、思いやり予算をくれる(米兵が沖縄で遊べる)からだ。米軍は今春、駐留費の負担増を拒んだドイツから撤退している。日本も、思いやり予算を削ったら、米軍の沖縄撤退につながりかねず、対米従属の維持が困難になる。 (Japan MOF seeks cuts in host-nation spending for U.S. military)
以前、米国が日本に「集団的自衛権を拡大しろ」と求めた際「自衛隊の海外派兵を増やす『兵力の負担増』を日本がするなら、見返りに思いやり予算の削減という『財力の負担減』をやってもいい」と米国から日本に伝えてあったようだ。その言質を取った財務省は、安倍政権が集団的自衛権の拡大を達成した後の今「約束どおり思いやり予算を削りますよ。良いですね」と言い出している。
米国は横暴な覇権国なので、自分が言ったことに責任を持たない。米政府は逆に「思いやり予算の増額」を日本に要求している。「思いやり予算を増やしてくれないと、在日米軍を撤退し、日本の官僚が独裁を続けられないようにしてやる。困るだろ。ならばおとなしく金を出せ」というのが米国の言い分だ。
そもそも減額の提案は、増額を防ぐための予防線として張られた可能性もある。おそらく財務省は最終的に思いやり予算の減額要求を引っ込めるだろう(引っ込めず粘るなら画期的で素晴らしいが、それは期待できない)。だが、米国覇権の低下が続き、米軍に出ていってもらいたい沖縄県民の意志も強まる一方な中で、日本が米軍駐留や対米従属を維持することは、しだいに難しくなっている。今回とりあげた、米国が日本を南シナ海紛争に介入させたがっている件も、日本が受け入れにくい無茶な米国からの要求として、日本に難しい決断を迫っている。
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